株式会社バーチャルキャストの「VR空間」に関する特許です。
ホームページより引用。
バーチャルキャストの説明を上のホームページから引用します。
「バーチャルキャストはVR空間でバーチャルキャラクターに変身して、誰でも気軽にライブ・コミュニケーションできるサービスです。」
「他人のルームに飛び込んでコミュニケーションできる「凸機能」で更にルームを盛り上げられます。」
この凸機能のようにVR空間を他の人と共有する場合、実空間と同様の問題が生じることがあります。
例えば決済時の暗証コードの入力です。
他人に見られない工夫が必要なのは実空間と同じですね。
今回の特許のポイントは、VR空間でもセキュリティを確保しようという点です。
特許出願2019-180710
図5
図5のようにVR空間でアバターAが暗証コードを入力するような「特定動作」が検知されたら、他人には図6~8のような画像が表示されるようにします。
図6
図6は特定動作が検知される直前の画像で、アバターAの静止画になっています。
図7
図7はモザイクオブジェクトMを重ねて表示させるパターン。
図8
図8はダミー動作として、全然関係のない動作をしている画像を表示しています。
セキュリティの他にも、隠すべき特定動作が例示されていたので明細書を引用します。
「【0086】
特定動作の他の例としては、例えばVR脱出ゲーム等において、第1ユーザがゲームで出題された問題に対して、仮想空間内の所定エリアで回答する場面(例えば、アバターを介して仮想空間内に配置されたホワイトボードを模した仮想オブジェクトに回答を記載したり、アバターの身振り等によって回答を提示したりする場面等)が考えられる。この場合、アバターを介した回答動作が、特定動作として予め定められてもよい。例えば、アバターが予め定められた仮想空間内の回答エリアに入った状態が検知されたことに応じて、特定状況が検知されてもよい。このような構成によれば、第1ユーザの回答内容が第2ユーザに見られてしまうことを適切に防止でき、コンテンツの娯楽性及び公平性が適切に確保される。
【0087】
特定動作の更に他の例としては、他者に見せるのにふさわしくない動作(例えば、他者を挑発するような下品なポーズをとる動作等)が考えられる。このような動作も、特定動作として予め定められてもよい。この場合、第1ユーザのアバターを介した不適切な動作が第2ユーザに提示されることが防止される。これにより、第2ユーザに不快感を与えることを防止することができる。」
請求項1は以下のとおりでした。
「仮想空間を表現するコンテンツを複数のユーザ端末に配信するコンテンツ配信システムであって、
少なくとも一つのプロセッサを備え、
前記少なくとも一つのプロセッサは、
前記仮想空間内に配置される第1ユーザに対応するアバターの予め定められた特定動作であって、前記第1ユーザとは異なる第2ユーザに対して隠すべき前記特定動作が行われる特定状況を検知し、
前記特定状況が検知された場合に、前記特定動作が視認できない態様で前記仮想空間を表現するコンテンツ画像を、前記第2ユーザのユーザ端末上に表示させる、コンテンツ配信システム。」
この請求項1に対し、審査官(審査第四部データネットワーク 今川悟さん)は、引用文献1のソニーさんの技術と同じでしょとバッサリ。
ソニーさんの技術も、VR空間で他のユーザが不快に思うような動作を修正して表示するというものです。
図10
今川審査官の認定を拒絶理由通知書から引用します。
引用文献1には「仮想空間を介して複数のユーザのプラットフォーム20(「ユーザ端末」)間で共有する情報を送受信する情報処理システム1であって、当該情報処理システム1が備えるCPU(「プロセッサ」)等で実現される認識部101及び制御部103によって、特定のユーザの動作又は状態を認識し、認識結果に応じて、例えば、上記ユーザの動作や状態に関する情報の中に不適切な情報(「特定動作」)が含まれている場合(「特定状況」)には、上記ユーザの動作又は状態に関する情報の内容を隠蔽等することで修正し(「視認できない態様」にすることに相当。)、修正後の上記ユーザの動作又は状態に関する情報を他のユーザ(「第2ユーザ」)と共有させる処理を行う情報処理システム1が記載されている。」
引用文献1の国際公開第2017/002473号の公開公報はこちらから。
そこでバーチャルキャストさんは請求項1を補正します。
まず特定動作を入力操作に限定してセキュリティに照準を合わせました。
そして、他人である第2ユーザが近くにいるときに特定状況を検知することとしました。
遠くにいる場合は見えないので必要ありませんから。
これらのことはソニーさんの技術では想定していません。
なおソニーさんも個人情報については言及していましたが、この点についてはバーチャルキャストさんの主張を引用します。
「ここで、引用文献1の段落0063及び図5Bには、他のユーザに隠すべき情報の例として、個人情報(例えば名前等)が例示されています。しかし、引用文献1の段落0063の記載「例えばユーザの家人がユーザの名前を呼んでしまったり、ユーザの名前が記載された物体が写り込んでしまったりした場合などには、ユーザの名前が他者に伝達されてしまう可能性もある。」から明らかな通り、引用発明1は、現実空間でセンサによって検出された情報(音声や画像)に他のユーザに隠すべき情報(ユーザの名前)が含まれる場合に、このような情報を他者に送信しないようにするものであり、他者に隠すべき情報(例えば暗証番号等)を仮想空間内でアバターが入力する場面を想定したものではありません。すなわち、引用文献1には、本願発明1における「第2ユーザに対して隠すべき情報を入力する対象となる特定オブジェクト」について一切記載されておらず、ましてや、「特定オブジェクトから予め定められた距離範囲内に当該アバターが配置されている場合に、特定状況を検知」することについて、何らの示唆もありません。したがって、たとえ当業者であったとしても、引用発明1に基づいて本願発明1に想到することは決して容易であるとはいえません。」
この主張のとおり、この内容で特許となり、2020年8月12日に登録公報が発行されました。
特許となった請求項1は下線部を追加した以下のようになっています。
「仮想空間を表現するコンテンツを複数のユーザ端末に配信するコンテンツ配信システムであって、
少なくとも一つのプロセッサを備え、
前記少なくとも一つのプロセッサは、
前記仮想空間内に配置される第1ユーザに対応するアバターの予め定められた特定動作であって、前記第1ユーザとは異なる第2ユーザに対して隠すべき情報を入力する操作である前記特定動作が行われる特定状況を検知し、
前記特定状況が検知された場合に、前記特定動作が視認できない態様で前記仮想空間を表現するコンテンツ画像を、前記第2ユーザのユーザ端末上に表示させ、
前記少なくとも一つのプロセッサは、前記仮想空間内において、前記第2ユーザに対して隠すべき情報を入力する対象となる特定オブジェクトから予め定められた距離範囲内に前記アバターが配置されている場合に、前記特定状況を検知する、コンテンツ配信システム。」
特許第6737942号の特許公報はこちらから。
拒絶理由や意見書等はこちらの「経過情報」から。