学校法人近畿大学完全養殖近大マグロに関する特許です。

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ホームページより引用

このホームページによると、完全養殖とは「人工ふ化した仔魚を親魚まで育て、その親魚から採卵し、人工ふ化させて次の世代を生み出していく技術」とのことです。

近畿大学は2002年にクロマグロの完全養殖を実現し、こちらのように近大マグロとして流通させています。

ただマグロのような難種苗生産魚種では仔魚がなかなか餌を食べてくれないそうです。

この難種苗生産魚種に餌を食べてもらえるように紫外線を照射するという点が今回の特許のポイントです。

特許出願2017-36616

表2

 31355BC0-7C77-43E0-B715-7CCA92002920

いろいろな波長の光をLEDで照射して、餌であるワムシがクロマグロ仔魚の腸管に入った数を調べました。

黒色は光を遮断した状態です。

白色や紫外線が高くなっています。

表6

 8FB30C4B-7A66-4D36-9836-A9034546CE70

そこで今度は白色蛍光灯と、白色蛍光灯+紫外線蛍光灯とを比較して、摂餌数と体長を調べました。

紫外線の方が高いようです。

請求項1は以下のとおりでした

難種苗生産魚種の仔魚に対して紫外線を照射することを特徴とする飼育方法

の請求項1に対し審査官審査第一部自然資源 大谷さん)は水産総合研究センターさんの技術と同じでしょとバッサリ新規を否定しました。

引用文献1

 BE3783D4-A908-40F3-B43A-0E3E44B05012

図2

 E76F07BD-E3C4-47CB-9F65-FCF2754E184F

このウナギ用の水槽では自然光を照射しているので、同じ難種苗生産魚種の仔魚であるウナギに紫外線を当てているよねという判断です。

拒絶理由を引用します。

引用文献1([0011]-[0012]、[0022])には、ウナギ仔魚(難種苗生産魚種の仔魚)に対して光を照射すること、光を照射する照明手段は蛍光灯のような照明器具、屋外から十分な光量が得られる場合は採光窓とすることが記載されている。ここで、自然光には紫外線や青・緑色光も含まれていることから、採光窓から照射された光は紫外線、及び波長400~560nmの青・緑色光も含むものといえる。

波長400~560nmの青・緑色光」というのは請求項2の構成で、こちらも新規性がないという判断です

引用文献1の国際公開第2015/93616号の公開公報こちら

これに対し近大さんは請求項1を補正しました。

ウナギは光を忌避して水底の餌を食べるのに対し、マグロは水中を浮遊するワムシを食べています。

そこで浮遊する餌をよく食べる方法と特定しました。

意見書引用します。

まずは近大さんの技術について。

ワムシは輪形動物門の微生物で浮遊生活をしているため、紫外線を照射することで、ワムシの摂餌数が増加したという事実から、紫外線を照射された難種苗生産魚種の仔魚は、浮遊する餌の摂餌行動が促進されたのは明らかです。

次は水産総合研究センターさんの技術との比較について。

すると、本発明と引用文献1に記載された発明との相違点は、以下のようになります。

相違点:本発明は紫外線を照射することで、難種苗生産魚種の仔魚の浮遊する餌の摂餌行動を促進させるが、引用文献1では、ウナギは光を忌避し水槽の底に用意された餌に到達して餌を摂取する点。

このような相違点があるので、引用文献1からはウナギ以外の仔魚が紫外線で浮遊する餌の摂餌行動を促進させるという知見を得ることはできません。また、上記の相違点を充足させる証拠もありません。また、引用文献1では、照明光の種類を限定しておらず、可視光でウナギが忌避行動を取っている点はわかるものの、紫外線によってウナギが忌避行動を取っているかどうかきわめて疑問です。特に「採光窓から得られた光には紫外線も含まれる」と認定されていますが、通常ガラス窓を透過すると紫外線はかなりの部分が減衰されます。さらに、波長の短い紫外線は水中への透過率が極めて低く、紫外線によってウナギが忌避行動を起こすといえるのかは、引用文献1から判断するのは妥当性を欠くものと考えられます。

この主張が認められたようで、新たに担当した審査官(磯田真美さん)が特許として2021年8月25日に特許公報が発行されました。

特許となった請求項1は下線部を修正した以下のとおりです。

難種苗生産魚種の仔魚に対して紫外線を照射し、浮遊する餌の摂餌行動を促進させることを特徴とする飼育方法。

特許第924474の特許公報はこちらから。

拒絶理由通知書や意見書等の情報こちらの「経過情報」から。