株式会社Synamonのビジネス向けVRコラボレーションサービス「NEUTRANS BIZ」に関する特許です。
ホームページより引用。
紹介動画はこちら。
SynamonさんのNEUTRANS BIZは、VR空間を複数人で共有して会議等に活用できます。
VR空間の共有で課題となるのは、自分の動きと他人の動きが表示されるタイムラグについてです。
自分の動きはタイムラグなく表示しないと、体感性が悪く違和感・VR酔いの原因になります。
一方で他人の動きや操作もタイムラグを少なくしたいですが、他人が遠隔地にいる場合には通信速度の問題がありどうしてもタイムラグが生じてしまいます。
すると自分と他人で共有するVR空間の整合性が取れず、円滑なコミュニケーションに支障をきたしてしまいます。
ただ雑談するだけなら良いんですが、Synamonさんのサービスのように会議等に使う場合にはなるべく両者の見てるものを整合させて、意思決定を緻密にやりたいです。
そこで今回の特許のポイントは、VR空間で他人が書いたり動かしたものについては、暫定的に表示させた後に都度更新することで、限られた通信速度でだましだまし空間を整合させようという点です。
特許出願2020-64448
図1
二人のユーザU1、U2がVR空間Vを共有しています。
まず書いた情報、描画オブジェクトの形状情報である線についての説明です。
図3
図3(a)は第2ユーザU2が見ている第2仮想空間V2です。
第2ユーザU2の操作によって描画オブジェクトである線Kが表示されます。
これは自分で書いた情報なので滑らかな曲線として表示されています。
一方で図3(b)は第1ユーザU1が見ている第1仮想空間V1です。
通信速度に限界があるため、こちらは滑らかな表示ができず線Lが折れ線で表示されます。
ただ時間がたつと、この線Lの情報が更新されて図3(C)の線Mのように滑らかに見えるようになります。
描画オブジェクトが少しくらい遅れても、まあ意思疎通には問題ないでしょうという仕様です。
次は動かした位置情報、動的オブジェクトについての説明です。
図7
図7(a)は第2ユーザU2が見ている第2仮想空間V2です。
第2ユーザU2が位置P1からP2にボールである動的オブジェクトを投げています。
しかし図7(b)のように第1ユーザU1から見ると、ボールはQ2の位置に止まって見えています。
図8
このボールを拾う動作を第2ユーザU2が見ている第2仮想空間V2で表現したものが図8(a)です。
自分で投げたボールなので正しく拾えています。
一方で第1ユーザU1から見た場合には、先ほどの図7(b)のようにボールはQ2の位置に止まっています。そのため図8(b)のように一瞬第2ユーザU2が操作する第2ユーザオブジェクトA2がボールを追い越したように見えますが、すぐに図8(c)のように更新されるということです。
変化オブジェクトよりも、相手方であるユーザの動きの情報をなるべくタイムラグなく優先させて表示させると、こういうことになるようです。
請求項1は以下のとおりでした。
「第1ユーザが使用するコンピュータを、
前記コンピュータとは異なる他の前記コンピュータを使用する第2ユーザの操作に基づく第2ユーザ情報を受信する受信部、
前記第2ユーザ情報に基づいて、前記第2ユーザの操作に伴って変化する変化オブジェクトの変化情報を算出する算出部、及び
前記変化情報に基づいて、前記変化オブジェクトを表示部に表示させる表示制御部、
として機能させ、
前記受信部は、前記変化情報を更新するための更新情報を受信し、
前記表示制御部は、前記算出部が算出した前記変化情報に基づいて表示させた前記変化オブジェクトを、前記更新情報に基づき更新する、
プログラム。」
この請求項1に対し、審査官(審査第四部映像システム(静止画) 村松貴士さん)は引用文献1の富士フイルムさんの技術から容易に思いつくでしょとバッサリ進歩性を否定しました。
引用文献1
図9
富士フイルムさんの技術は、画像編集をオンラインで行う際に、編集サーバで行った編集内容をクライアントコンピュータ側で更新して表示するものです。
変化情報を更新させるという点で相違点がないようなので、もしかしたら新規性もないのかもしれません。
引用文献1の特開2000-30073号の公開公報はこちら。
これに対しSynamonさんは請求項1を補正しました。
富士フイルムさんの画像編集では編集が終わったタイミングで画像情報を更新します。
一方でSynamonさんの技術はVR空間での円滑なコミュニケーションのために、変化オブジェクトを都度更新させて、なるべく共有空間を整合させようというものです。
そのため相手の情報を受信するごとに変化情報を算出して更新するという点を特定しました。
また、通信頻度を少なくするために相手の情報の受信間隔を、相手のコンピュータが操作情報を受け付けている間隔よりも長くする点も特定しました。
意見書の主張を長いですが引用します。
「しかしながら、引用文献1には、本願発明1における発明特定事項(A)、(B)が記載されていない点で相違します。具体的には、本願発明1においては、コンピュータ(第1ユーザが使用する第1ユーザ端末)が、所定の間隔(他のコンピュータ(第2ユーザが使用する第2ユーザ端末)が第2ユーザの操作を受け付ける受付間隔より長い間隔)で、第2ユーザ端末が当該所定の間隔に基づく所定のタイミングで受け付けた第2ユーザの操作に基づく第2ユーザ情報を受信し、第2ユーザ情報を受信するごとに変化オブジェクトを表示する(第2ユーザ情報を受信するごとに変化情報を算出し、算出した変化情報に基づいて変化オブジェクトを表示する)のに対して、引用発明1においては、他のクライアント・コンピュータが、あるクライアント・コンピュータにおいて画像の編集が終了したことを契機として編集情報を更新するための上記データを受信し、受信した上記データに基づいて編集情報を更新する点で両者は相違します。つまり、本願発明1においては、コンピュータが、所定の間隔で受信した、変化オブジェクトを変化させるために用いられる情報に基づいて変化オブジェクトを段階的に表示するのに対して、引用発明1においては、他のクライアント・コンピュータが、画像を編集した結果に基づく上記データを一度だけ受信して、受信した上記データに基づいて編集情報を更新する点で両者は相違します。よって、本願発明は、引用発明1に対して、構成上の相違点を有します。
(b)本願発明1による効果
本願発明1においては、引用発明1との相違点に係る発明特定事項(A)、(B)を有することにより、第2ユーザの操作に伴って変化する変化オブジェクトを段階的に表示させることができます。これにより、本願発明1では、第2ユーザが変化オブジェクトを変化させる操作を行ってから当該操作に伴って変化する変化オブジェクトが第1ユーザ端末に表示されるまでの時間を短くさせることができます。その結果、本願発明1は、第2ユーザの操作に伴って変化する変化オブジェクトを早期に第1ユーザ端末に表示させることができます。この効果は、引用発明1においては生じないものであり、当業者が予測できなかった効果であると思料します。また、引用発明1においては、あるクライアント・コンピュータを使用するユーザによる画像の編集の過程を、他のクライアント・コンピュータに表示させるという技術的思想を有していないため、本願発明1のように、第2ユーザ端末が第2ユーザの操作を受け付ける受付間隔より間隔が長い所定の間隔で、第1ユーザ端末が第2ユーザ情報を受信することは、容易に想起することができないと思料します。このように、本願発明1では、第1ユーザ端末と第2ユーザ端末との間における第2ユーザ情報の送受信の頻度を低くさせることにより、ネットワークの負荷を軽減させることができます。これにより、本願発明1では、ネットワークの負荷が高くなることよって生じ得る、第2ユーザ端末による第2ユーザ情報の受信の遅延を小さくさせることができます。その結果、本願発明1は、第2ユーザが変化オブジェクトを変化させる操作を行ってから、当該操作に伴って変化する変化オブジェクトの変化が第1ユーザ端末に表示されるまでのレスポンスの速さに応じて得られる第1ユーザの感覚、すなわち第1ユーザの体感性が低下することを低減させることができるという有利な効果を奏します。」
この補正の内容が認められたようで特許となり、2021年1月6日に特許公報が発行されました。
特許となった請求項1は下線部を追加した以下のとおりです。
「第1ユーザが使用するコンピュータを、
第2ユーザが使用する、前記コンピュータとは異なる他のコンピュータが前記第2ユーザの操作を受け付ける受付間隔より間隔が長い所定の間隔で、前記他のコンピュータが当該所定の間隔に基づく所定のタイミングで受け付けた前記第2ユーザの操作に基づく第2 ユーザ情報を受信する受信部、
前記受信部が前記第2ユーザ情報を受信するごとに、当該第2ユーザ情報に基づいて、前記第2ユーザの操作に伴って変化する変化オブジェクトの変化情報を算出する算出部、及び
前記変化情報に基づいて、前記変化オブジェクトを表示部に表示させる表示制御部、
として機能させ、
前記受信部は、前記変化情報を更新するための更新情報を受信し、
前記表示制御部は、前記算出部が算出した前記変化情報に基づいて表示させた前記変化オブジェクトを、前記更新情報に基づき更新する、
プログラム。」
特許第6810818号の特許公報はこちらから。
拒絶理由通知書や意見書等はこちらの「経過情報」から。